風岡 夏純――①

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着ている黄色いパジャマも、見覚えのある馴染みの物。 だけれど、それを着る娘の姿は到底馴染みのある姿とは異なり過ぎていた。 息子か夫、どちらかが捲ったのか、布団はかけられていない。 それ故に、全身が見えているわけだが、目にすることのできる娘の身体その全てが、焦げて炭にでもなったように真っ黒に染まっていた。 「あ……い……?」 いや、染まっているのではないと、脳の冷静な部分が告げてくる。 身体そのものが黒く変色していると言うべきだ。 肌だけでなく、ぽかりと開いた口内に見える舌や歯、最期に果たして何を見たのか驚いたように見開かれた眼球も、見えている箇所の全てが黒く変色している。 ピクリとも動かないその身体は、既に死んでいると嫌でも理解できてしまう。 「…………すみれ?」 側に来た夫の手が、肩に触れる。 その現実的な感触が、一気にすみれの意識をクリアなものへと引き戻した。
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