オトナリさん。

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 ジリジリと目覚ましが鳴っている。  目を擦りながら音の元を探って目覚まし時計をオフにした。 「っと、もうこんな時間?」  なんだかあまり寝た気がしない。  それでも仕方なしに体を起こして伸びをすると、ふと眠る前の出来事が湧き上がるようにぽこぽこと記憶の海に浮き出てきた。 「お隣さん、か。」  のほほんとした雰囲気の青年の顔を頭に思い浮かべてみる。  寝惚けていてあまりよくは覚えていないけれど、優しい笑顔の人だった。 「引っ越してきたのかな。それで挨拶、とか。」  頭が回ってなかったせいで失礼な話だけどあの人が話していたことはほとんど覚えていない。  ただ、始終ずっと笑顔だったことだけはやけに記憶に残ってる。  やっぱり笑顔が印象的な人だ。  実を言うと名前も覚えてないあの青年を、にこにこさんと呼んでも違和感がないような気さえしてきた。  第一に、本名だって覚えてないんじゃ正しい名前も呼びようがない。今度会うまでに名前を思い出すか耳にするかすればいいんだけど。 「まあ…また会うかどうかも分かんないし、そんなこと気にしても意味ないか。」  ぽつんと気持ちを切り替えるように呟いて、私はやっとのそりとベッドから起き出した。
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