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のそのそと緩慢な動きで着替えるとバイトに行く準備を整える。
「んーと…よし、大丈夫。」
荷物がちゃんとあるか確認してから玄関の扉を開けた。
のと同時に、とある人物を発見する。
「おはようございます、仁さん。」
私の呼び掛けに反応して作務衣姿の背中が振り返った。
老人ホームにいてもおかしくない80代後半くらいのご高齢だけど、ボケもせずしっかりとしていてむしろ鋭いくらいのその人、仁さんは私の隣の部屋の住民で、絵を描くことがなによりの趣味だ。
まだ午前中だと言うのにどこかで絵を描いてきたんだろう。よく見てみると小脇にスケッチブックを携えている。
「あぁ、ハナちゃんか。おはよう。これからバイトかね?」
脇に持ったスケッチブックを持ち直しながら微笑む仁さんに私はこくりと頷き返した。
「そうか、大したもんだ。くれぐれも無理はしないようにほどほどに頑張りなさい。」
まるで私が孫かのように優しい声で心配してくれる仁さんにもう1度頷いて、私は鍵をかけて家をあとにした。
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