不思議なドア

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「ねえ、どうしてガラスを割ろうとしないの。とても重い何かで叩いたり、折れてもいい包丁を突き刺したりと……。そうすれば割れるんじゃない」  コルジンはガラスを拭くのを止め仕方がないといった顔で、 「それは無理なんだ。このガラスはとても頑丈でハリーの持っている機関銃でもビクともしないし、亀裂もまったく走らないくらいなんだ。だから、こうやって強力な洗剤でガラスを少しずつ溶かしていかないといけない」 「ふーん。あ、そうだ。お給料とかは貰っているの」  そう言うと、コルジン以外の数人の大人たちは笑いだした。 「ヨルダン。ハリーはこの館で一番の金持ちなんだ。そのハリーが毎日俺たちに給料を支払ってくれているんだ」 「あ、ハリーおじさんが」 「なんだ。ハリーを知っているのか」 「うん。ハリーさんにもう出会っている。そして、そのハリーさんが三日後に楽しいショーをしてくれるって」  コルジンは青いエプロンを片手で軽く叩いて、 「そいつはいいや。俺たちの娯楽は何にもないからな。例えつまらなくても見に行く価値があるだろう」  そういってコルジンは力を込めてガラスを拭く。 「人間は不思議だな。仕事というのをしないと生きていけない」  雲助が僕の肩で呟く。  1時間後、数人の大人たちはみんな疲れている顔になってきた。しかし、コルジンは平気そうな顔で、どんどんガラスを拭く。僕はボロ切れを足元にあるバケツから取り出し洗剤を少し付け、 「僕もやる」  好奇心で大人のマネをしだした。  天使の扉付近には、いつの間にか白のスーツで金髪のおかっぱ頭、恐ろしく細い女が腕を組んで立っていた。    その日から、あの天使の部屋のガラスをコルジンたちと拭いた日は、コルジンの部屋に泊めてもらった。  仕事を終えると扉付近に立っていた恐ろしく細い女からお給料も貰った。  30クレジット。この館のお金だ。ハリーからも30クレジット貰って、これで60クレジットになった。 「おい、おチビちゃん。朝飯はテーブルの上にあるからさ。俺は仕事に行って来るよ」  床にタオルケット一枚から起きたコルジンは起き上がると、昨日の仕事で疲れて目覚めにくい夢を見ている僕に言った。  コルジンは朝食の軽く包装されたハムサンドバーガーをキッチンの戸棚から取り出すと、外へと軽快な足取りで出た。 「おい、ヨルダン。俺は腹減ったぞ」
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