不思議なドア

18/26
前へ
/95ページ
次へ
 グッテンは学者のような話し方をジャージ姿で大声で言い放つ。その姿は……お風呂に入っていないことが一目瞭然だった。 「へえ。古文書か……。グッテンは凄いな。俺は仕事しか能がないからな」  コルジンが洗剤の匂いがプンプンついた手で頭を掻いた。 「私は古文書しか読めないさ。それしか能がないんだ」  グッテンは呟いた。  二人は親友なのかと僕は考えるが、友達を持ったことがない僕にはそれが何なのか解らない。友達や仲間を持つ人の実感が湧かない。  けれど、この館には興味が尽きるということが、永遠にないということが解った。僕はボロ雑巾を隅っこのバケツの中に放り込み。グッテンのところへと駆け出した。雲助が悲鳴を上げる……蜘蛛の悲鳴なんか初めて聞いた。  僕は外へ出たら、グッテンの後を目の回る迷路を歩き回った。館の中の通路はやはり迷路だ。僕は天使の扉から更に奥へと行ったのだ。グッテンは迷路をまったく苦にしていないといった顔で、僕が一度も開けた時が無いドアを開けた。  それは、薄いグリーンのドア。正面に薄いピンクのドアと並んでいる。ドアを開けながらグッテンは、 「薄いピンクのドアは食用動物園さ。金がないと入れない」 「幾ら位のお金が必要なの?」  グッテンは僕を薄いグリーンのドアの中へ入れ、 「そうだな。60クレジット位かな……。多分……私は肉を食べないのさ」 「え、ハムや焼き肉も高いの?」 「そうさ、ハムも高級品さ。この館では高い。私はドアに閉じこもる本の虫で、仕事をしないから……給料を貰っていないけれど……。肉は食べたいとは思わない」  グッテンはオールバックの頭を両手で撫で挙げる。  食用栽培園。  濃密な土の匂いがする広大な部屋は、例えると僕の通っていた小学校の体育館の3倍の大きさくらいだった。床も天井も壁も年季の入った焦げ茶色。  中央に集まっている幾つかの水源の井戸があって、そこから地下水を汲むようだ。  井戸は恐らく700年はそこにあるだろう。石作りの外観はボロボロになっていて、緑色の苔がびっしりと覆っていた。  何の変哲もない床の所々に30cm四方の穴が均整に開いてあって、その中には野菜が顔を出していた。こっちにはキャベツ、あっちにはニンジン。あ、レタスやじゃがいももある。  野菜の根っこは、当然のことに地下に生えている。
/95ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加