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グッテンは学者のような話し方をジャージ姿で大声で言い放つ。その姿は……お風呂に入っていないことが一目瞭然だった。
「へえ。古文書か……。グッテンは凄いな。俺は仕事しか能がないからな」
コルジンが洗剤の匂いがプンプンついた手で頭を掻いた。
「私は古文書しか読めないさ。それしか能がないんだ」
グッテンは呟いた。
二人は親友なのかと僕は考えるが、友達を持ったことがない僕にはそれが何なのか解らない。友達や仲間を持つ人の実感が湧かない。
けれど、この館には興味が尽きるということが、永遠にないということが解った。僕はボロ雑巾を隅っこのバケツの中に放り込み。グッテンのところへと駆け出した。雲助が悲鳴を上げる……蜘蛛の悲鳴なんか初めて聞いた。
僕は外へ出たら、グッテンの後を目の回る迷路を歩き回った。館の中の通路はやはり迷路だ。僕は天使の扉から更に奥へと行ったのだ。グッテンは迷路をまったく苦にしていないといった顔で、僕が一度も開けた時が無いドアを開けた。
それは、薄いグリーンのドア。正面に薄いピンクのドアと並んでいる。ドアを開けながらグッテンは、
「薄いピンクのドアは食用動物園さ。金がないと入れない」
「幾ら位のお金が必要なの?」
グッテンは僕を薄いグリーンのドアの中へ入れ、
「そうだな。60クレジット位かな……。多分……私は肉を食べないのさ」
「え、ハムや焼き肉も高いの?」
「そうさ、ハムも高級品さ。この館では高い。私はドアに閉じこもる本の虫で、仕事をしないから……給料を貰っていないけれど……。肉は食べたいとは思わない」
グッテンはオールバックの頭を両手で撫で挙げる。
食用栽培園。
濃密な土の匂いがする広大な部屋は、例えると僕の通っていた小学校の体育館の3倍の大きさくらいだった。床も天井も壁も年季の入った焦げ茶色。
中央に集まっている幾つかの水源の井戸があって、そこから地下水を汲むようだ。
井戸は恐らく700年はそこにあるだろう。石作りの外観はボロボロになっていて、緑色の苔がびっしりと覆っていた。
何の変哲もない床の所々に30cm四方の穴が均整に開いてあって、その中には野菜が顔を出していた。こっちにはキャベツ、あっちにはニンジン。あ、レタスやじゃがいももある。
野菜の根っこは、当然のことに地下に生えている。
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