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「ここが、食用栽培園。ここなら、無料で野菜が手に入るんだ。毎日、管理しているのはルージー夫妻さ。でも、今は昼飯休憩だから自分たちの部屋にいると思う」
僕はまたルージーさんたちかと、嫌な気分になった。
グッテンはそんな僕の顔を見て呟いた。
「ルージー夫妻は、ああ見えて優しい人たちなんだよ。ただ、館の亡霊に子供を三人もやられてしまって、もう子供は嫌いだと泣き叫んでいたところを見た時があるんだ」
「不幸のせいで、子共嫌いになったの?」
「ああ、心が弱いのさ……。自分たちの心で不幸を処理出来なくなったのだろう。だから、子供に八つ当たり。確か三番目の子が君くらいの年格好だったはず……。ああ見えて、かなりの寂しがり屋なのだよ……。あの夫妻は……。きっと、君と失った子供を重ねているんだろう」
どうして、人間って死ぬのかな?
心が急に寒くなって、ポツンとした薄暗い牢に入りそうだ。でも、僕は人の死をちょっと体験し過ぎたようだ。
心では、もう人の死を受け入れる作業ができないんだ。頭で考えよう。心で受け入れるのは、おじいちゃん一人だけの死でたくさんだ。
「ねえ、グッテン。この館には当然、太陽がないよね。それなのに、どうして野菜が育つの」
グッテンは下を俯きだし、しばらく記憶のページから太陽という名を探しだした。
「太陽。太陽……か。ふふふ……外館人か。太陽なんて知名度がまったく無いことを言われると混乱するよ。そうさ、この館には太陽がない。だから、作物は自然とあまり育たないかも知れない。けれど、ルージー夫妻の薬は特別なのさ」
「薬?」
「ああ」
グッテンは床の野菜を……レタスを一つ、布袋を僕に渡し、両手で持ち思いっきり持ち上げる。
ズボッと野菜が取れた。
それは大きい瑞々しいレタスだった。
「いい薬を昔から持っているのさ。植物栄養剤だったかな?」
「お昼?」
「ああ。私はレタスが大好きだ。いつも昼食にレタスとパンを食べる。あ、そうそう。あそこにあるパンの小麦粉はここで無料で貰えるんだ。……その蜘蛛にも御馳走しようかな?食べるかい?」
グッテンは遥か遠くの床を全面的に引っぺがしたところの小麦畑を指差し、レタスを僕の頭に張り付いている雲助へと一枚差し出す。
雲助が僕の髪の毛の間に慌てて潜り込んだ。
「俺はレタス嫌いだ」
雲助はレタスが嫌いというより、グッテンが苦手のようだった……。
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