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優しかったおじいちゃんの館へと、一人でやって来ては、何時間と二階の奥の部屋で本を読んだ。僕はその度におじいちゃんに「この館に泊まっていってもいいんだよ」と優しく言われた。
でも、泊まると何日も泊まり続けてしまいそうで、怖い気持ちが僕の心を蝕んだ。それは、家に帰りたくない気持ちが雪に投げ出された雪玉のように次第に大きくなって、そんな気持ちを抱えながら、この世の終わりといった顔で家に帰ることが怖かった。
僕は二階へと上がる。光輝く豪華な階段は、ミシリ、ともしない。僕の体重を軽々と平気な顔して受け止めた。
二階へ上ったら、まっ先に一番奥の本がびっしりある部屋へと行くつもりだった。その部屋で僕はよく本を何時間と読んだ。そこで、僕は本を一生読むつもりだ。誰かが来ても、何と言われても……。
ふと、正面の扉が開いた感じがした。隙間から細い息吹のような冷たい風が僕の頬を掠める。
その部屋はおじいちゃんの奥さんの部屋だ。何年か前に亡くなってしまったおじいちゃんの最愛の人。その奥さんの部屋に、おじいちゃんは世界中から集めた宝石をどこかに隠しているんだっけ……。
僕は一目見たくなった。おじいちゃんの世界中から集めた宝石はいったいどんな輝きをするのだろう。
奥さんの部屋の扉は鍵が掛っているはずなのに、少し開いていた。中に入ると、
「駄目だ駄目だ。中の中に入っちゃ」
また蜘蛛が意味の解らないことを口走る。
僕はそれを無視して部屋の中へと入った。
中はきっちりと掃除が行き届き、重厚な造りは見た事もない。まるで東の王様や貴族の部屋にも負けないくらいだ。僕は大きな天蓋付きのベットを通り過ぎ、世界中の宝石がありそうな化粧ダンスに向かう。その宝石の輝きはどんなだろう。僕は財布から一番輝く500円玉を取り出して、見比べてみようとした。
けれども、500円玉は僕の手からするりと下に落ち、コロコロと、冬を覗かせる窓際への質素なドアへと当たる。
「こんなところに何でドアがあるの?」
僕は不思議がり、冬の外と繋がるドアを開けようとした。
「坊主……中の中には入るなと……」
ドアは開いた。
そのドアは本来ならば、冬空を覗けるはずの外ではなく、向こう側には僕の家のおよそ百個分はある広大な館の延長があった……。
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