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ハリーは低く声のトーンを落として、
「御連れさんは……。おお、可哀そうで言えないよー」
ハリーは芝居がかった物言いをし、頭を垂れたがすぐに前方を真っ直ぐに向き、
「さあ、誰か勇猛果敢な挑戦者はいるかい! 勿論、ペアでだよ!」
ステージが静まり返った。さっきまでのハイテンションが嘘のよう。みんなざわざわと小声で話始める。
僕は今でもドキドキする心臓が急に萎れて、委縮していくような感覚を覚えるが、頭では金髪の少女のことばかり考えていた。左右に耳を傾ける。
「やっぱり……」
隣のグッテンは呟いた。
「おいおいマジかよ。ハリーの奴どうかしてしまったのかな。俺はハリーが奥さんを失った時、その場にいなかったからな。よく解らないが可笑しくなっちまったのかな」
コルジンは気分を悪くして、僕の頭を撫で始める。
僕は今度は後ろの席の声に耳を傾けると、
「俺の言った通りだろう。ハリーはやっぱり気違いだよ」
「こんな所に居たくねえな。帰るかな」
「30クレジットも損したぜ。けど、誰か挑戦しないかな」
「馬鹿野郎。クイズをする奴はいいが、もう一人は死んじまうだろうが」
人々は色々なことを口にする。それらの事を聞いていると、なら僕が出ようか・・・などと考えてしまう。連れは一人もいないけど。雲助でもいいのかな?
「私がやるわ!」
ホールの一番奥から甲高い声が響いた。
「おい、大丈夫なのか!」
この声はルージー夫妻だ。夫人の挑戦に夫が心配な声を出した。
あのルージー夫妻か。僕はまた嫌な気分になった。あんな人たちは死んじゃえばいいのに……。僕はルージー夫妻がこのショーで酷い目にあうことを内心願っていた。
「ルージー夫妻は先祖代々、無料で野菜を提供しているので貧乏なのさ。収入といったら雀の涙のハリーからの一年に一回の給料だけ」
端っこの大人が同情のこもった声でぼやいていた。
「100万クレジットといったら、部屋も二つも買えるしな」
その隣の大人が頷いて同意する。
「こりゃ……」
コルジンが言葉を詰まらせる。
青い顔のグッテンはコルジンに言い聞かせようと、
「誰にでも解るクイズならばいいのだけど。そうじゃなければ何とかしたいところだ」
その声は何かを警戒しているみたいだ。それはハリーの狂気に他ならないのだろう。しかし、僕だけは早くショーが始らないかとウキウキしていた。
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