ハリー・ザ・ショー

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「あなた。これが終わったら旅行へ行きましょう」  キャサリンと呼ばれたルージー夫妻の妻は以外と気丈夫のようだ。心が弱いと言われているが、お金が絡むと一般的なおばさんと同じく強くなるのだろうか。 「さあさあ、これより……クイズを……始める。運命の車輪は回転しだして、もう誰にも止められないよ!」  100人の観客席は全て暗黒の緊張感にドップリと浸った。しんと静まり返っている。でも、僕だけは目をキラキラしている……。これから、起きる事は一生忘れない……そんな予感めいたものが僕にはあった。 「さあ、早速始めようか。第一問、この近辺の古き大地には山というものがあって。その山は何て言うのでしょうか?……さあ早く、答えないと」  それまでなかったBGMが、観客席の奥の方から聞こえてきた。大きい音量なのに、みんなの耳に入らない。それと、ハリーのクイズは僕には簡単過ぎた。だって、日常的に……毎日見てたから。  僕はクイズが簡単過ぎて気を落としそうになった。 「ヨルダンくん! これは、古文書のことだ! 君ならば解るかも知れない!」  グッテンは顔を上気させて、興奮気味に早口に喋りだした。 「うん。それは解るさ……簡単過ぎるよ」  僕は頭を回転させなくても解る事柄に、心がしぼみだした。 「おい! キャサリン! 俺は解らんぞ! 何を言っているのか?!」  ルージー夫妻の夫の方が早口に喚く。クイズ台への照明がレッドランプよろしく赤く明滅しだした。 「まあ、どうしましょう!」  赤い照明に照らされたキャサリンは叫んで、拷問椅子の中、暴れ出した。 「なんだ。勉強不足だね。こんな簡単な問題も解けないなんて?これじゃあ、お先真っ暗だよ!観客には刺激が足りないから派手にぶっ放すよ!」  黒タイツたちが一斉にキャサリンを取り巻き、腰にぶら下がっていた機関銃を観客席に向け出した。グッテンたちが助けられないように。 「さあ、制限時間以内に答えられるかい?」  ハリーが軽いステップをした。この場面を盛り上げようとしているのか、そのステップはみんなの心拍音のように規則正しい。  僕はドキドキする。胸の鼓動をそのままに、戦慄する美しい少女の横顔、拷問椅子のキャサリンおばさんの慌てふためく顔……を見ていた。 「ブー! 時間切れでーす!」  ハリーが片手を大きく振った。
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