不思議なドア

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「その館はな。とても不思議なところなのさ。世界中の不思議な部屋やドアがたくさんある。……中の中には入っちゃなんね!」  僕は好奇心は無い方だ。と、両親からよく言われていたけど、この時はその好奇心がこの不思議な館を隅々まで探検し、調べ尽し、あまつさえ住んじゃおうということさえ考えさせた。  そう思うと、もう止まらないんだ。  僕はその冬の外と繋がるはずの灰色のドアの中へと入った。  すると、後ろを振り向く間もなくドアが消える。入ったその直後に……。  僕はそれでも気にしなかった。ドアが突然消えるものではないとは解かっていても。  広大な館の延長線は、見るからに常識離れしている。まるで、夢の世界だ。僕はまだ布団の中で、ぐっすりと眠りこけているのだろうかとさえ思わせる。……広すぎる。見渡す限り部屋、部屋、部屋だった。いったいいくつあるのか数えることができないほど、不思議なドアがいっぱいある。  赤や緑、黄色とオレンジなど中にはどんな色なのか表現しにくいドアもある。それにおじいちゃんの館より大きく、途方もない。およそ100階はあるんじゃないかな。吹き抜けのある階段が天までとどいている。見上げると首がどうしても垂直になってしまう。  僕はこの館の主になって、一生暮らせられるのかと、ふと思った。  さあ探検の始まりだ。  僕は一番近いところのドアを開けた。  それは、緑色のドアだった。ドアの向こうには正面へと通路が続いていて、何の変哲もなかった。僕はがっかりして歩いていると、壁に立て掛けてある何枚もの絵がひとりでに動きだし、そして、一斉に床に落ちた。パリンと乾いた音がしたと思ったら、絵の中身の絵の具が染み出てきて僕の靴を汚した。 「どうなっているの?」 「中の中には入っちゃなんね!」  蜘蛛が口走る。  絵の具の量は留まることを知らず床一面をカラフルに彩りだし、絵の具特有のシンナーの匂いが通路に充満しだした。  それから、絵の具は跳ね上がり散々に壁にぶち当たり、最後には人の形になっていく。 「ヨルダン逃げた方がいいぞ! この館には危険がいっぱいだ!」  蜘蛛の一言で僕は通路をまっすぐと全速力で走り出した。  あっという間に息が切れる。しかし、絵の具の人の形は僕を物凄い速さで無茶苦茶な色をして追ってくる。 「おい蜘蛛! あの絵の具はどこまで追ってくるの!」
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