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「いや、御免。もう出掛けないと……この館の探険をしたいし。あまり遅いとおじいちゃんになってしまうかも」
「どうしても行くのかい」
筋肉隆々の中年男性がスプーン片手に僕に寂しそうに話しかける。
「うん。他のドアも知りたいし」
僕は嫌と言うほどの冒険という名の探究心に奮い立たされている。そんな気持ちも今まで一度も持ったことがなかった。
ドアを開け、おじいちゃんの館へと戻る。雲助と振り向くと、中年男性がゆっくりと手を振っていた。
ドアだらけの空間を右に左に入り組んだ迷路のような道を歩く。色とりどりの同じ形のドアを目にしては僕は楽しくて仕方がない。豪華にも装飾や天使や女神の絵が設けられた天井には、無数の蛍光灯が縦横無尽にあった。でたらめな作り方だったけど、見ていて楽しい。
二・三段だけの階段もいくつかあり、上ったり下がったりしているうちにここが何階なのかは解らなくなった。
これがおじいちゃんの本当の館なのだろう。僕は何十個とあるドアを開けては中にいる住人に挨拶をして、そして何度も感激した。
「坊主。中の中には入っちゃなんね!」
相変わらず雲助はそう言っていた。
「この館にはまだ秘密があるの?」
雲助は僕の顔を6本足の1本で引っ掛け、
「この中には色々あって、たくさん過ぎることがあるんだ。その中には邪悪なものや危険なものもある」
「へー。そうなんだ」
僕はそれを聞いて、より一層好奇心が湧いてきた。
二・三段の階段に座り込んで、
「危険なものってどんなの?」
邪悪なものは知りたくない僕は、危険なものの方を尋ねる。
「この館には無限のドアがあるってことは言ったな。その中には当然、好ましくないものや危険なものがあるのはしょうがないことさ。その中で危険なものとは、この館に住んでいると言われている亡霊さ」
「亡霊?」
「ああ。この館から一歩も出られない者たちには、それを快く思わない人々もいるのさ」
「このおじいちゃんの館に閉じ込められていると思っている人」
僕には理解出来なかった。だって、こんな凄いところで一生暮らせるなんてまさに天国さ。
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