第1章

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廊下に出ると蛇口から水が洪水のように溢れ出していた。誰かの仕業だろう。〝魔〟は満月の夜にしか出て来ない。 葉月は、溜息を我慢しながら見なかったことにしてその場を去ろうとする。 後ろからいきなり右腕を掴まれた。 「何だよ?いきなり!ああ!?」 葉月は悲鳴を上げるのを忘れて唐突に怒鳴り、素早く構える。葉月の悪い癖だった。そのせいで友達がいないと言っても過言ではない。 葉月は女の子にしてはジャジャ馬過ぎて、扱い切れる男はいない。他の女子も何度かイジメを試みては失態を晒していた。 「みりあのクラスを知らないかい?」 やんわりとした口調とは正反対の目付きの30代後半の風貌をした男が葉月の腕を強く握っている。髪の毛が白く疲れた顔をしていて、まるで何百年も生きてきたかのようだった。 その男は長身で小柄な葉月を圧倒した。 それで恐れる程、葉月はヤワに出来ていない。 顔を赤らめて、また怒鳴った。 「離せよ!!」 男は丁寧な調子で言葉を発すると同時に葉月を解放した。 「これはこれは失礼でした。レディ。みりあの教室が分からなくて藁にでも縋りたい気分で存じ上げます」 葉月は心臓がトキメクのを自覚しながら、ぶっきらぼうに男に来た道を指差した。 「私が出て来た教室にいるけど何か?」
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