第1章

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男は恭しく頭を下げて、礼をする。 「ありがとう、赤嶋葉月ちゃん。君が〝魔〟を倒すことができることは調査済みなのだ。赤嶋家にはお世話になっていてね。そうだ、私の名前は薬師煌玄(ヤクシコウゲン)と申します」 葉月は後ずさりしながら、目だけは薬師から離さず、言った。 「ストーカーは学校内まで来る訳?それに何よ?その外見」 薬師は金色の季節外れの和服を身に付けている。先生でも生徒でも有り得ないだろう。 微笑を湛え、葉月に迫った。 「君が〈セバスチャン〉という宝具で〝魔〟を倒すように、私も神社のお社の務めをさせて頂いている身分でね。疲れる仕事ですよ」 葉月はせせら笑った。 「そんな嘘、簡単に見破れるんだから!」 葉月の言葉に薬師は冷たい目で相変わらず微笑む。 「私に触れてみなさい」 蛇口の水が一斉に止んだ。沈黙が残る。 葉月は強情に薬師を伺いながら、素早く薬師の手に触れた。 ーーはずだった。 薬師の身体は空気に混ざり、触れた感触を微塵も感じさせない。 葉月は久しぶりに心の底から笑った。 「認めてあげる。ただ私のこと詮索するのはやめて。私は貴方を詮索するけど。私の負けよ」 薬師は死んだ魚の眼で、葉月に手を差し出す。 葉月は応じた。 一目惚れについて学んだのはかなり後になってからだった。
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