8人が本棚に入れています
本棚に追加
「た、ただいま」
「パパ、おかえりなさい」
「美樹、おお、無事だったか」
武夫は駆け足で部屋に入り、美樹を確りと抱きしめた。
「良かった、心配したぞ」
「パパ、苦しいよ、それよりもお腹ペコペコ、ご飯まだ?」
「ああ、ごめんね、あれ?ママは何処に行ったんだろう」
「なんかパパを迎えに行くって言ってたよ」
「あれ、行き違いか、しょうがないな」
そう言うと武夫はリモコンでテレビのチャンネルを変えた。
「あー、見てたのに」
「ダメダメ、この時間はニュースだろ、ニュース」
ピッ、ニュースを続けます。
先日茨城県つくば市で起きた17歳の少年が車にはねられ約3キロ引きずられて死亡したひき逃げ事件の続報です、つくば北警察署は住所不定無職の浪川信吾(25歳)を殺人と自動車運転過失傷害、道交法違反容疑で逮捕しました、事件当時無免許で酒を飲んでおり、人を轢いたことも引きずったことも気がつかなかったと犯行を一部否認しています、県警は現場に残された、蛇行したタイヤ跡や急スピードを出した経緯等を慎重に捜査をしているとの事です。
「うぬぬぬぬ‥‥なんという卑怯、卑劣なヤツめっ自分がどんなに悪い事をしたのか分かって無いのか、迷惑を越えて社会に取ってマイナスの事しか出来ないグズめ、許せん、許せんぞ」
ドンッとテーブルを掌で叩いて、その勢いのまま立ち上がり武夫は再び玄関の方へ歩いて行った。
「ママを、探してくる‥‥」
美樹は武夫の鬼気迫る態度に怖くなり、何も言えずに硬直したまま、両親の返りを待っていた。
ガチャンと玄関のドアが開いた。
「ただいま‥‥」
「ママ!パパは?今会わなかった?」
美樹はいつもと違う二人の態度の理由を問うように母親にすがると、見つけたのだった、母親の両手が真っ赤に血で染まっているのを。
「マ、ママどうしたの、怪我したの、血がいっぱいついてるよ」
「ああ、大丈夫よ、洗えば落ちるから」
蛇口をひねり流れ出てきた水に掌を擦り合わせると、シンクに血の帯が吸い込まれていった。
「そ、そうなんだ」
母親が怪我した訳でほ無かったなら、その血はいったい誰の物なのか、でも美樹は口には出せずに黙っていた。
次は特集です。
その音で美樹も昌美も付け放しのテレビに気づいた。
神奈川県掛川市内の中学校で当時二年生の男子生徒がいじめを苦に自宅で自殺した事件を振り返って、学校と教育委員会の隠蔽体質を事件の前後で検討してみます。
最初のコメントを投稿しよう!