トリガーエフェクト

「もうやだ、ニュースは見たくない」
美樹がそう言ってリモコンを手に取ろうとした時だった。
バンッと玄関のドアが勢いよく開く音がした。
「パパ？」
「ハァッ、ハァッ、ハァッ」
息を切らして顔面蒼白にした武夫が帰宅したのだった。
「‥‥皆帰ったか、じゃあご飯にしよう」
平然を装うように武夫が言うと昌美も呼応するように話を合わせた。
「そ、そうね、お腹減ったわね」
美樹は二人の存在に安心したのか、僅かな疑問を払拭するかのように応えた。
「うん、もうお腹ペコペコだよ、アハハ」

自殺事件当初、学校側と教育委員会はいじめと自殺の因果関係を認めず自殺は被害者の家庭環境に原因があるとして説明していました、また被害者のクラス担任の教員はいじめを目撃しても止めに入らず、遊びの一貫と認識し、いじめの事実を認めなかった。

「‥‥パパ、マ、ママ？」

学校側と教育委員会はその後謝罪会見をしたものの、いじめと自殺の因果関係は調査では分からなかったとして最後まで認めず、担任の教員は心的外傷を受けたとし逆に被害者の保護者に損害賠償訴訟を起こしました。

「少し、出掛けてくる‥‥」
「やだ、なんでパパ」
「ママも、行くわ‥‥」
「え、マ、マ」
美樹の残る部屋を後にして、武夫と昌美は一言も口を開かず外に出ていってしまった。
「ど、どうしたの、パパ、ママ‥‥」

次は新しく届いたニュースです。
本日未明、東京都江戸川区の路上で通行人が相次いで鈍器のような物で殴打される事件が起こりました
被害者は10代男性、20代女性、20代男性で全員死亡が確認されています被害者は頭や上半身を数回以上殴られており即死したもようです、目撃者の証言で犯人らしき人物は中年の男女だったと言う情報が入ってきています。

「ど、どこに行ったの‥‥」

また、同様の突発的な殺人事件が全国各地で相次いで起こっており、事件の関連と真相の解明を警察は迅速に捜査を進めているとの事です。

ニュースを終わります。

「パパぁ、ママぁ、怖いよぉ‥‥」

一人ぼっちの家の外では遠くで緊急車両のサイレンの音が鳴り響いていた。
いつまでも。

もし貴方もニュースを見て、過剰に憤りを感じたり、犯人が憎くてたまらなく思ったりしたら
何か潜在意識に影響が出ているのかもしれませんね

ニュースの見過ぎにご注意下さい。