富田なのに青山と呼ばれる刑事

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深夜の横浜埠頭に刑事が二人。かれこれもう 3時間近く、建物の陰に隠れて大型倉庫を 見張っている。 「おい、今夜ブツが運ばれて来るのは間違い 無いんだな。」 ベテラン刑事松山が新人刑事富田に確認する。 「ええ、間違いありません。もうすぐコンテナ トラックで運ばれる予定です。」 チッと舌打ちしてから松山は吸っていたタバコを 携帯用吸殻入れに捨てた。真夜中とはいえ堂々と コンテナで麻薬を輸入するなんて、警察も随分と ナメられたものだ。倉庫は暴力団片眼野組が所有 していて組員の姿が何人か見える。 チラッと腕時計を見ると深夜1時半を少し回った 所だった。富田刑事の方を見ると何だかモゾモゾ している。 「おい、どうした?」 声を掛けると申し訳無さそうな顔で 「松山さん、またトイレ行って良いですか。」 「バカヤロ。何回行けば気が済むんだ。少しは 我慢しろよ。」 「すいません。」 松山が新人の頃は「コレにしろ」とコーヒーの 空き缶を渡されたものだ。今の時代そこまでは 言わないが、肝心のコンテナが到着した時に 居なければ話にならない。膀胱を鍛えるのも 刑事の基本だ。特にこの富田という新人は周り から「刑事に向いてない」と散々な評価で、 先週も尾行に失敗して容疑者を見失った。 だから上司に頼まれてしばらく松山がコンビを 組んで彼を育てるコトになったのだ。 そう言えば何故か彼は「青山」と呼ばれている のだがどうしてなのだろう。人気ドラマの刑事 は「青島」だし、富田は熱血とはほど遠い。 松山がポケットから最後の一本を出して火を 付けようとした時、コンテナトラックがついに 姿を現した。慌ててポケットにタバコをしまい 代わりに携帯電話を取り出す。
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