第二話 「復讐」

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 早速次の日から、俺は少年占い師にもらった言葉や占いを新たなる『道しるべ』として存分に利用した。結果は全てが幸せという方向へと進む。 「やっと君も部長かおめでとう」 「ありがとうございます」  今までの仕事の成果が認められ、一気に昇進した。私生活でも二回目の結婚を決め、子供もできた。将来にも光が見え、不幸という言葉は俺の前から消えた。全てが俺の思い描く復讐劇のクライマックス通りになりかけていた。  しかし、欲望のままに手に入れた幸せは持続力をなくし、ドミノを倒すかのように音を立てて崩れ始めていた。だからといって、俺が不幸になったというわけではない。今の生活はエベレストの山頂にずっといるという過酷な状況である。今までの俺は海底の奥底にずっと眠っていて、地上に出るタイミングを窺っていた。そんな俺が急に真逆の頂辺を取り、それが日常になる。  『幸せ』が当たり前になると突然俺の目の前に『幸せ』がなくなり、日常だけが残る。少年占い師が言っていた『悪』が死ぬときに残るという言葉から、俺は気づいた。復讐劇という悪趣味をし続けた俺のクライマックスは『幸せ』を失うことだと。  「幸せは少しの不幸で成り立つ」という言葉の意味に気づいた頃には手遅れだった。
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