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「あなたを必ず幸せに導きます」という看板が目に入る。俺も含めて、人間は『幸せ』という言葉にめっぽう弱い。ボロボロになっている俺はその看板の言葉に惹かれて店へと入る。
「いらっしゃいませ、占いの館へ」
黒いドレスというのかな、そんな感じの服を着た可愛らしい女性が出迎えてくれた。光が薄暗く、不気味な雰囲気が漂う店内。俺は彼女の説明を聞きながら占い師を案内される。
「こちらが占い師のタールさんです」
黒いローブを被って、顔すら見ない占い師が座ったままゆっくりと会釈する。普段、会社員として勤めている癖で俺は相手の会釈と同時に深々と頭を下げる。
「では、ごゆっくり」
どこか落ち着かない雰囲気。目の前には大きな水晶とお香の独特な匂いが充満している。
「……あの」
何も話さない占い師に対して、痺れを切らし俺が声を出す。俺の声に反応した占い師が俺の方を見る。さっきは上から見下ろしていて顔は見えなかったが、今はっきりと見えた。細い目、やせ細った頬、唇も乾燥してカサカサになっている老婆だ。
「お前さんのような若い者はここに来てはならん」
結局、俺が何を言っても老婆の占い師は占ってくれなかった。今思えばこれが『占い』にハマるきっかけだったのかもしれない。
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