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「お前、この頃なんか無理していないか?」
振り返ると、同期の山河(ヤマガワ)が立っていた。驚いた時に落としたタバコを足で踏み火を消す。山河から差し出されたタバコを貰い、再びタバコに火をつける。
「無理なんてしてないと思うけどな」
「奥さんのこともあったし、いろいろ辛いだろ? それ占いだろ――俺はオカルトとかあまり信じないからお前にこれやるわ。もしかしたら良い道を切り開ける良い機会になるかもしれないよ」
山河から渡されたのは「あなたを必ず幸せに導きます」と書かれた占いの広告だった。今日のターゲットはここにするか。
「ありがとう。今日仕事終わったら行ってみるよ」
たばこの火を消し、喫煙所を出る。
後輩上司に先輩の俺が頭ペコペコ下げながら謝ったり、どれだけ真面目に努力しても結果がついてこない業務。いつも通りの勤務がやっと終わった。さて、行こうとするか。
札幌のススキノの華やかしい繁華街を越えた先に目的の占いの館がある。五月の北海道の夜の風は肌を貫くようにまだ寒い。飲食店の匂い、人のざわめく音、心をも冷たくする風、全てが嫌に感じてくる。
山河に渡された紙を見ながら進むと次第に人の声も飲食店の匂いもなくなり、閑静な住宅街に出る。この道の横に入って、あそこの暗く一寸先も見えない細い路地に入るのか。俺の足音がコトコトと響き渡り、それ以外の音は聞こえない。不気味という言葉が似合う路地。入ってから数分で見覚えのある看板が見える。
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