0.プロローグ

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  この光景を何度見ただろう。 私の身体を包み込む心地よい熱を感じながら、私は目を覚ました。 全身に残る気だるさは数時間前までの行為を鮮明に思い出させるけれど、火傷しそうなほどの熱はすっかりどこかへ行ってしまっている。 私の隣にはスースーと穏やかな寝息をたてて彼が眠っている。 その寝顔はまるで天使のようにかわいいものだ。 閉じられたまぶたを飾るのは女の私よりも長い睫毛。 真っ直ぐに伸びた鼻梁の先には、触るとやわらかい厚くてセクシーな唇が主張しており、無駄な肉のついていない顎のラインは鋭角で耳に向かってすっと線が通る。 すっかり夢の世界に入ってしまった彼がなかなか目を覚まさないことを私は知っている。 寝ている彼にいたずらでキスをしたことも何度もあるけど、起きたためしはほとんどない。 でも、慎重に、そっと、私たちをやわらかく包み込む真っ白なシーツから左手を出し、私は彼のやわらかい髪の毛に触れた。 ふわりふわりとナチュラルなウェーブのかかったこの髪の毛に触れるのがすごく好き。 起きている時に彼の髪の毛を触ると、くすぐったそうに彼ははにかみ、その綺麗な弧を描いたやわらかい唇で、私の唇を食べてしまうように塞いでくる。 そして、私は彼のぬくもりに包まれるんだ。 彼と過ごすそんな些細な時間が私は大好きで大切で、泣きそうなほど幸せを感じる。 一生、このままでいられたら幸せなのに、と思ってしまうほど。 でも、きっと遠くない未来、この関係に終わりを迎える日が来る。 どんなに私が彼のことを想っていたとしても、彼の心が私に向く日は来ないから。  
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