助手席

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助手席

 渋滞にはまった。  追い越し車線のない一本道で、交差点どころか車が入れそうな脇道もないから、当分はのろのろ運転で前進するしかない。  いっそ、コンビニかファストフード店でもあれば立ち寄って時間を潰すのに…なんてことを思ったが、道路脇に見えるのは味もそっけもない建物ばかりだ。  住居兼店舗みたいな理容院とか、町の小さな板金屋とか、自分が乗ってる車とは違う会社のショールームとか、そんなものがちらほらと立ち並んでいる。  興味がないのでほとんどそちらに視線を向けはしなかったが、ある瞬間に気づいた。  建物のガラス部分…窓やガラス張りの扉の前を通過する時、当然そこに自分の車が映り込むのだが、助手席に誰かがいるのだ。  のろいとはいえ車は動いているから、止まってはっきり確認した訳じゃない。でも確かに、ガラスに映る車体の中には俺以外の誰かがいる。  しっかりとは見えないが、ガラスの中に人間の手足が映り込む。それが動いているのも判る。でも、直接見ても助手席は空だ。  見なかったことにはできない。ガラス越しとはいえ見える以上、横には何かがいるんだろう。だけど肉眼では見えないから、気づいてない態度で放置しよう。  そう思っていたんだが…。  ふいにウインカーが点滅を始めた。もちろん俺は触ってない。ただ、道路脇の美容院の窓ガラスに、勝手にウインカーを左折にしている手が映っているのが見えた。
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