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左折の表示を出されても道なんかない。どこかの店にでも入らせようとしているのか?
しかし今の美容院を過ぎると、そこから暫くはどこかの工場の壁が続くばかりで、左折できそうなポイントはない。
気味が悪いことに変わりはないが、特に害のないいたずらだ。そう考えてウインカーを戻そうとしたが、レバーはぴくりとも動かない。
しばらくガチャガチャやっていたがやはりレバーは動かず、ひたすらウインカーが点滅を繰り返す。
そうこうしている間に工場の壁が過ぎ去った。その先に細い脇道が見える。その瞬間、俺の背筋は凍りついた。
確かに道が見えている。でも、ナビにはそんな道は記されていない。俺は存在しない道に曲がらされようとしている。
どんなに頑張っても動かせないハンドルが、ゆっくりと左に切られていく。現実には存在しない道に車が侵入する。
それと同時に真横から声が響いた。
「やっときちんと出て来られた」
その一言が、俺の記憶に残る最後の言葉となった。
助手席…完
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