助手席

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 左折の表示を出されても道なんかない。どこかの店にでも入らせようとしているのか?  しかし今の美容院を過ぎると、そこから暫くはどこかの工場の壁が続くばかりで、左折できそうなポイントはない。  気味が悪いことに変わりはないが、特に害のないいたずらだ。そう考えてウインカーを戻そうとしたが、レバーはぴくりとも動かない。  しばらくガチャガチャやっていたがやはりレバーは動かず、ひたすらウインカーが点滅を繰り返す。  そうこうしている間に工場の壁が過ぎ去った。その先に細い脇道が見える。その瞬間、俺の背筋は凍りついた。  確かに道が見えている。でも、ナビにはそんな道は記されていない。俺は存在しない道に曲がらされようとしている。  どんなに頑張っても動かせないハンドルが、ゆっくりと左に切られていく。現実には存在しない道に車が侵入する。  それと同時に真横から声が響いた。 「やっときちんと出て来られた」  その一言が、俺の記憶に残る最後の言葉となった。 助手席…完
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加