第2章

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紗季はサンやキンから聞いていた勇者だと直感でわかった。 「勇者は元の世界に還ったのですか?」 紫苑が首を横に振った。 「真実は誰にもわからない。ただ勇者の言葉に頷いたのは、以前勇者と魔王を討伐した団長だ。」 わたしたちの向かいに座った清四郎が微笑んだ。 「勇者カケルは明るい青年だったよ。元の世界に戻り、婚約者と会いたいと言っておった。」 遠い目をしながら、面影を辿るようなしぐさをしていた。 「アキ。君は異界から来たのだろう?」 優しい眼差しに嘘が言えなかった。 清四郎の結界の内側に、紗季の結界を重ねていく。 【解除】 灰色の瞳とピンク色の髪から、黒眼黒髪に戻した。 ガタンッ!! 紗季の容姿を見て、腰を抜かしたのは紫苑だ。 「ああっ、貴女は… 驚きのあまり口をパクパクしていて言葉が出ない紫苑を、そっと抱き起こして椅子に座らせた。 清四郎がお腹を抱えて笑い出した。 「あはははは!アキは龍神の森主の嫁か。そりゃヤンが敵わぬわ。」 真顔になった清四郎がサッと騎士特有の礼をした。 「アキ。勇者からの鍵を受け取って貰いたい。」 胸元から何か取り出して、紗季の手に乗せた。手元にはタロットカードを入れる小箱のように思えたが、パンドの麗気を宿す封印された木箱だった。 「今、開けてもいいですか?」 「構わない。開けられるのか?今まで大勢の者が開けようとしたが、決して開くことはなかったんだ。」 清四郎の目が悪戯に輝いている。まるで少年みたい。 (開けられなかったらどうしよう?) 期待に応えたいと思いながら蓋を持ち上げたら、左耳が微かに震えた。 妖精のご加護のおかげで封印は解除できた。
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