第1章

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フラフラと彷徨った挙句、私はホテルに入った。 温かいコーヒーでも飲もう。 次男が5年生になってから、外でコーヒーを飲むことなんて、なかった。 塾のお迎えがどんなに凍てつく夜でも、私は必ず、外で待っていた。 仕事との両立を諦めた自分への、せめてもの戒めになるように。 文句を言わずに塾代を出してくれる、夫への償いになるように。 そして、勉強を頑張った次男を、一番早く迎えられるように。 中学受験が終わったら、最高のコーヒーを飲もう。 そう願うことで、ギリギリの心を支えていた。 けれど、その日の私はもう、ギリギリのラインを超えていた。 第一希望校での失敗が、頭の中を離れなかった。 ホテルの中は、驚いたことに、着物姿の女性で溢れていた。 一体どうして。これは夢の中なの? うろたえる私の視界に、「祝成人」と書かれた垂れ幕が映った。 そうなのだった。こちらが中学受験に夢中になっているうちに、 世間では着実に、時が流れていたのだ。 そのホテルは、複数の美容室や貸付着物店がスペースを借りて 壮大な着付け会場となっている様子だった。 そして、仕上がったお姫様たちは、 コーヒーショップへと次々にやって来た。 「きゃあ、久しぶり!」 抱き合う人たちの姿、それを見つめる母親たち。 そのときの私には、決して正視できない穏やかな幸福が、空気を包んでいた。
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