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大学を卒業し、何と無く教師になった。
「新任の、渡辺です」
桜華高校に就任して、2年が経った頃、他校の先生と結婚をした。
すぐに子供が生まれ、香奈と名付けた。
「ぱぱ!」
可愛かった。
可愛くて仕方がなかった。
しかし、香奈が生まれてしばらくすると、妻が夜泣きに耐えられないと離婚を迫ってきた。
教員で、子供を、人間を高め育てる者が何を言っているのか。
呆れ、そして教員という職に少なからず失望を覚えた。
「ぱぱー、ままは?」
香奈のその言葉がひどく痛む。
教員は安月給だ。
しかし、辞めて香奈を危険に晒すわけにもいかない。
香奈が5歳になる頃、俺は謝った。
「淋しい思いばかりさせてすまない」
保育園帰りに、ポツリと車の中で謝った。
どちらかというと懺悔に近いが。
「ぱぱは、せんせいなんでしょ?」
「そう、だな…」
「かなねー、せんせい大好きだよ?じゃあ、ぱぱは先生してる時が、1番カッコ良いね!」
屈託無く。
俺の迷いも全て溶かして、娘はそう笑った。
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