誰にも言えない。

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 葉鳥 夢(はとり ゆめ)。  現代ファンタジー小説の主人公にいそうな名前は、嫌いではない。  だけど字面を見ているとなんだかふわふわゆるゆると生きていそうで、なんだか落ち着かない。  なんて名前をつけてくれたんだろう、うちの両親は。  先生に渡されたプリントを眺めながら、そこに書かれた名前をなぞる。  武士沢 叶太(ぶしざわ かなた)。  同級生であり、私の幼馴染の彼は強そうな名前に見合わず臆病で、引っ込み思案で、人見知りだ。  何事にも消極的な叶太くんは、今度の生徒会選で副会長に立候補していた。  今まで人前に立つことなんて一度もなかった叶太くんが生徒会役員に立候補するだなんて、思ってもなかった。  つつ……と叶太くんの名前をなぞると、その上にどっしりと構える葉鳥の文字が飛び込んできた。  生徒会長に関しては、他に立候補も推薦者もいないせいでそのまま私が続投。  喜んでいいのかどうなのかは正直複雑なんだけど……もし、叶太くんが副会長に当選したら――、一緒に何かができる。
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