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言葉を発することもできずにこくこくと頷いていると、叶太くんはカメラを構えた。
大きなレンズに映る私は、目を真ん丸に見開いて随分と間抜けな顔をしている。
「あれ、これ撮れないね」
「ぼ、ぼぼぼ望遠だから、こんなに近くちゃ撮れないよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
叶太くんは「さっきから」と言った。
どこから。どこから見ていたの。
「……あれ。夢ちゃん、これでは撮ってないの?」
「な、何を?」
「僕」
「ひゅっ」
叶太くんの言葉に、変な呼吸をしたせいで思い切り噎せてしまった。
げほごほと繰り返す私の背中をそっと撫でながら叶太くんは続ける。
「最近よく僕のこと撮ってたよね? あと生徒会選のポスターとか。用意してくれたの夢ちゃんでしょ?」
「……。なん、で」
震える唇で発することができたのは、消え入りそうなその問い掛けだけ。
喉の奥までカラカラに乾いて、まともに喋れないし何も考えられない。
なんで。なんで。
繰り返されるのは、それだけで。
俯いた私の手を掴んだ叶太くんは、少しだけ腰を落として私を覗きこんできた。
「字とか、そういうので夢ちゃんかなって思ってて」
「字とか」
「うん。そしたら、ちょくちょくこっちにスマホ向けてるの見かけたから、やっぱりって」
「……全部、気付いてたの」
力強く頷かれて、足の力が抜けてへたり込んでしまった。
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