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横から青ざめた顔のグリーンが言った。ばつが悪そうに笑うピート。
「あははっ。うちの子、生真面目だからなぁ」
頭をかいて誤魔化すピートは、家の理化学文献が無くなっていた理由が分かったと笑っているが、笑い事ではない。青ざめたグリーンの目先には辺りの岩盤一杯に書き込まれた化学式が連なっている。
「なぁ、ピート。手から砂をサラサラする程度の奴でも、あれだけの博物館で魔法を唱えたら……凄い事が出来たりするの?」
「うーん……もし、私の文献全て書ききったとしたら、地形を変えるくらいの土魔法なら……」
「最っ悪だ」
本当に最悪だ。一瞬でも憧れた自分が恥ずかしい。そして、その最悪が現実になる。
「先制はもらいますよ」
アキラの言葉に連動してティーチの周囲の地面に亀裂が入る。これをリーディングで先読みして跳んだティーチだったが、そこにはアキラの剣撃、全体重を付加したレクイエムの一撃が待っている。空中でアキラの長剣とティーチの大鎌が激しくぶつかり、衝撃でお互いの身体が後方へと移動する。とはいえ、心の読めるティーチはここまでも計算に入っている様子でなんなくアキラの先制攻撃を凌いでいる。ティーチに勝つという事はつまり【先を読んでも敵わない力を示す事】なんだ。やっぱり勝敗は揺るがないじゃないか。
「まだですよ」
しかし、オイラの安心はまたしても浅はかだったと思い知る。ティーチを調べていたアキラがその事に気付いていないはずが無いのだ。アキラの着地地点の地面は盛り上がり、ティーチより数秒早くに着地する。それは更に攻撃権を得たと同義だ。対して着地に入ったティーチには無数の流砂が眼を覆い、着地を乱していた。
「剣士の発想だな。魔法の派手な効力に魅せられる魔法使いとは違う。地の利や優勢な戦いを熟知した者の魔法、いい着眼点だ」
この状況で何を言っているのか……呆れた事にピートは運動会の我が子でも見る様に満足気だ。そんなピートに気をとられている間にもアキラの攻撃は続く。先に着地したアキラがティーチに向かって駆ける。ようやく体勢を整えたティーチだが、その周囲は流砂が覆い瞳を閉じている。
「最後です」
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