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かすれた声で怒鳴りながらアキラへと一歩歩み寄る。枯れた喉が痛むが気にならない。アキラは無我夢中の形相で剣を振るっている。ティーチはオイラに気付いて、何か叫んでいる……が、聞こえない。恐らく危ないとかそういう事なのだろうけど、オイラにとってはどうでもいい事……の、様に思える。更に一歩前進する。ティーチが叫ぶ。アキラの剣がオイラに向く。あぁ、そうか。もうアキラの視界はぼやけているんだ。オイラがパウロかティーチかも分からない程に。そんなに頑張って、背伸びして、大人になろうとしていたんだ。アキラの剣がオイラの頭上に振り上げられ……そして、ようやく我に返った。
「う……うわぁー!!」
枯れたはずの喉から叫びが漏れる。叫びに気付いてアキラが剣線を変えようとしているが、アキラにはその力が残っていない。アキラの剣が頭上に迫り、オイラは目を瞑る。その時、オイラの肩に手がかけられ、同時に後ろへと引っ張られた。
「えっ?」
ゴツリと鈍い音が響く。知っている音だ。剣の音でも鎌の音でもなく、人が人を最も単純に攻撃する時の音。慌てて目を開いたオイラの前には殴られたアキラと、拳を握りしめたピートがいた。オイラは、初めて見たかもしれない。あんなに怒った大人の顔を。
「痛ぅ……このバカ野郎!お前がしたかったのはなんだ?」
ピートは慣れない握り拳を赤らめながらそこにいた。あまりの怒声に怯むアキラ。しかも、その顔は事故とはいえ、親友を手にかけそうになった失態に耐えかねたまるで、魂をどこかに置いて来たような、そんな表情だった。
「ふぅ……お前は何のために来た?」
ため息一つ分の間を開けてピートが問う。今度は怒声じゃない。暫くの沈黙を置いて、潤んだ瞳のアキラが応える。
「ブラウン隊長の……父の仇を……」
ピートは目を閉じて、深呼吸をして言った。
「誰の為に?」
「「?」」
その言葉の意図が分からずアキラと、オイラはピートを見る。
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