忠告

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 翌日、オイラはグリーンの勉強会をエスケープした。エスケープって言葉は最近覚えた。要するにサボリ。なんで言葉ってのは同じ意味のものが沢山あるのか……ティーチの得意な異国語や旧国語なんて特にそうだ。言語なんて全国統一してしまえばいいんだ。あー……でも自分の標準語でお願いしたいし、それはどこの国も一緒な訳だ。まぁそんなくだらない話はどうだっていい。オイラがエスケープした理由は一つ、今はアキラと顔を合わせたくないからだ。昨日は悩んでなかなか寝付けなかった事もあり、イライラしながら町を歩いていると、そこに頭から血を流した男、ピートが話しかけてきた。 「なにかお悩みかな?おじさんで良ければ話を聞くよ」 「おじさんは嫌だ」  少し、酷い返答だったろうか?あるいは、せめて少しは悩むそぶりでもすべきだったかもしれない。しかし、今のオイラはこのいい加減な男を頼りたいとは思えない。イライラを寝不足のせいにしたついでに、今の悩みをアキラに戦いを教えたこの能天気のせいにしてやったってバチは当たるまい。 「アキラと……ティーチ君の事だろ?」  驚いた。断定的な言い方だった。それも、いつもの雰囲気ではなく、えらく真面目な眼でこちらを見ている。低い、大人びた声だ。 「今の君は中途半端だな。特に道を示すつもりは無いが、常に傍観者でいた私から、一言だけ忠告させてくれ。どちらの敵になっても、成り行きを見守っても、責任は等しく降りかかる。それだけだ」  それだけを言い残してピートは去って言った。呼び止めようかとも思ったが、口が動かない。あまりにも確信的な発言に脳が追いつかなかくて受け止めた心だけが妙に痛んだ。彼が見えなくなる頃、金縛りの様に動かなくなった身体がようやく動き出した。空気を浅く吸い、それが脳や身体に行き渡るのを実感して、改めてさっきの言葉を反復する。 「責任……等しく」
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