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「マサくん……」
メールの送り主は将大だった。
「ああ、マサくん……マサくん……」
宏輝はその場に崩れ落ちた。極度の緊張状態から解放され、安堵のあまり膝をついてしまったのだ。
「マサくん……マサくん……」
スマートフォンを握る手に力がこもる。縋りついているかのようだ。それはここにはいない将大を想っての行為だろう。涙の雫が液晶画面にぽたりとこぼれた。
ひとしきり泣いたところで宏輝ははっと我に帰る。反射的に顔を上げて周りを見渡すと、そこには誰もいなかった。宏輝を怯えさせていた暴力的な視線も、どこかへ行ってしまったようである。
――もしかしたら、最初から僕の思い違いだったのかな。
宏輝はそう思った。あの視線の正体は将大が隣にいない寂しさと不安が形となって、宏輝を苦しめんとする幻覚だったのかもしれない。それでいい。それでいい。
将大という存在を再認識した今、宏輝の心にはゆとりができた。
――大丈夫。だって僕にはマサくんが隣にいるから。
だが、その思いこそが幻覚であったのだと、のちに宏輝は知ることになる。
視線の暴力は新たな手段で宏輝に接近したのだ。
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