第一章 波の狭間で

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「マサくん……」  メールの送り主は将大だった。 「ああ、マサくん……マサくん……」  宏輝はその場に崩れ落ちた。極度の緊張状態から解放され、安堵のあまり膝をついてしまったのだ。 「マサくん……マサくん……」  スマートフォンを握る手に力がこもる。縋りついているかのようだ。それはここにはいない将大を想っての行為だろう。涙の雫が液晶画面にぽたりとこぼれた。  ひとしきり泣いたところで宏輝ははっと我に帰る。反射的に顔を上げて周りを見渡すと、そこには誰もいなかった。宏輝を怯えさせていた暴力的な視線も、どこかへ行ってしまったようである。  ――もしかしたら、最初から僕の思い違いだったのかな。  宏輝はそう思った。あの視線の正体は将大が隣にいない寂しさと不安が形となって、宏輝を苦しめんとする幻覚だったのかもしれない。それでいい。それでいい。  将大という存在を再認識した今、宏輝の心にはゆとりができた。  ――大丈夫。だって僕にはマサくんが隣にいるから。  だが、その思いこそが幻覚であったのだと、のちに宏輝は知ることになる。  視線の暴力は新たな手段で宏輝に接近したのだ。
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