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奇妙な郵便物が届いていたのは、大学からの帰り道にまであの視線に付きまとわれた日から、さらに数日が経過していたときだった。
朝、大学に向かう前にアパートの集合ポストを検めていた宏輝は、スーパーのチラシに紛れていたそれを見つける。一見するとバースデーカードのように思える。女性が好みそうなカラフルな色合いだ。宏輝は不思議に思ったが、ひとまずそれをチラシと共に部屋へ持ち帰ることにした。
ゴミ箱の前に立ち、チラシの類をまとめて捨てる。取っておいてもどうせゴミになるだけだ。宏輝は次に例のカードを手に取る。それは二つ折りになっていて、透明なビニールの袋に入っており、可愛らしいマスキングテープで封が閉じられていた。
「何だろう」
宏輝にはまったくといっていいほど女っ気がない。当然カードを贈られるような相手も思いつかない。不審に思いながらも、好奇心をくすぐられた宏輝は、そのテープをはがし、中のカードを取り出す。爽やかなミントの香りがした。香水の残り香がカードに移ったのかもしれない。不思議と宏輝は、その香りをどこかで嗅いだような覚えがあった。
「そもそも、これは僕宛てなのかな」
二つ折りのカードを手にしたとき、宏輝はその可能性を思い当たる。もしかしたら、宏輝と他の誰かの部屋番号を間違えてポストに投函してしまったのかもしれない。このカードには宛名が書いていなかったのだから。
だが、封を開けてしまったのだ。ちょっとくらいはいいだろう。宏輝は自己肯定をし、二つに折られたカードをそっと開き、しばし言葉を失う。
『君は美しい』
カードにはそう書かれているだけだった。
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