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悪夢だ。宏輝はまた今日も謎のカードをゴミ箱に捨てる。
初めてカードが届けられた日から、今日でもう十日目。いたずらであろうと思っていたカードは毎日のように届けられ、宏輝を精神的に追いつめていた。
文面は毎日異なっている。初めのうちは抽象的なものだったが、その中身は日に日に宏輝個人に宛てられたものになり、また文面も性的なものになっていた。
『僕にとって君は眩しすぎる』
『抱きたい』
『ヒロキを僕だけのものにしたい』
宏輝を苦しめる相手が自分と同じ男であるとわかったとき、宏輝はおぞましさに吐き気をもよおし、その日の授業を休んだ。カードには精液らしきものがかけられた形跡も見受けられる。
――どうして、また男に執着されるんだ。
宏輝は感じることのないはずの悪臭に鼻を歪める。十年前の忌まわしき記憶が、この数日間の嫌がらせによって呼び起こされ、当時の混乱の中に宏輝自身を落としこむ。
――嫌だ。嫌だ。助けてマサくん。
あの日、宏輝は必死で将大に助けを求めた。この声が将大には届かないことは承知の上で。身体中を這い回る脂ぎった手のひら。むせかえる汗の臭い。うなじにかかる生温かい吐息。
「うぅ……っ、うぁ……ぅ……っ」
過去のトラウマに苛まれた宏輝は、この日も大学を欠席した。
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