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将大が住むアパートは宏輝の住むアパートから大学方面に戻り、そこからさらに北へ十五分ほど歩いた先にある。宏輝のアパートとは違い、将大のアパートは商店街の近くに建っており、街灯もたくさんあるため、夕食時でも人通りは多かった。
宏輝は足早にアパートへの道を歩く。いつものように地味な色のパーカーをはおり、頭にフードを被ったままの宏輝を、すれ違う通行人は不審な目で見ていた。だが、宏輝にとってはこの格好が自分自身を消し去り、闇に溶けこむためには最適なファッションなのである。
道中、宏輝は将大への言い訳を考える。将大のアパートにはこれまで何度も泊まりに行ったことはある。高校を卒業して春からひとり暮らしをすると決めたとき、本音をいえば宏輝は将大と同じアパートにしたかった。だが口うるさい親の手前、いくら幼馴染であるとはいえ、同性である将大との同居は難しかった。
大学に上がってからは暇さえあれば将大のアパートに立ち寄り、時間帯によっては止まることも多々あった。その逆で、将大が宏輝のアパートへ泊まりに来ることもある。
だが互いのアパートへ行くときは決まって事前に連絡を入れることが暗黙の了解であるのだが、急いでアパートを飛び出した宏輝は将大への連絡を失念していた。向かう途中で何度か立ち止まってかけようとも思ったが、いまは少しでも早く将大のもとへ向かいたかった。
将大が住むアパートの輪郭が見えてきて、自然と進むスピードも速くなる。宏輝は駆け足になり、将大のもとへと急いだ。
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