第一章 波の狭間で

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「マサくん……っ」  アパートの扉が閉まりきるよりも早く、宏輝は将大の広い背中に抱きつく。 「マサくん……マサくん……」 「ヒロ……何があったんだ?」 「何もない……っ、何も……何も……っ」  宏輝は将大の背に顔を埋め、子供のように泣いた。将大の薄手のアウターが、宏輝の涙で染まっていく。腹に回された細い腕は小刻みに震え、宏輝の身に降りかかった恐怖を体現している。将大は宏輝が落ち着くまで、彼の止まり木となった。 「……ごめんね、マサくん」 「もう大丈夫か?」 「うん」 「それならよかった。そうだ、ヒロに見せたいものがある。ヒロのために新しく――」 「ねえ、マサくん」  宏輝は将大に抱きついたままの体勢で問う。 「おまじない、しよう?」 「でも、お前……」 「いつものじゃ足りないから、今日はいっぱいおまじないしよう?」  宏輝の発言に将大の心臓はどくりと踊る。その鼓動は密着している宏輝にも伝わってきた。 「だめ……?」  将大が断れないと知りながら、宏輝は上目遣いで懇願する。そんな自分をずるいと思いながらも、いまはただ、将大との時間を過ごしたかった。
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