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「マサくん……っ」
アパートの扉が閉まりきるよりも早く、宏輝は将大の広い背中に抱きつく。
「マサくん……マサくん……」
「ヒロ……何があったんだ?」
「何もない……っ、何も……何も……っ」
宏輝は将大の背に顔を埋め、子供のように泣いた。将大の薄手のアウターが、宏輝の涙で染まっていく。腹に回された細い腕は小刻みに震え、宏輝の身に降りかかった恐怖を体現している。将大は宏輝が落ち着くまで、彼の止まり木となった。
「……ごめんね、マサくん」
「もう大丈夫か?」
「うん」
「それならよかった。そうだ、ヒロに見せたいものがある。ヒロのために新しく――」
「ねえ、マサくん」
宏輝は将大に抱きついたままの体勢で問う。
「おまじない、しよう?」
「でも、お前……」
「いつものじゃ足りないから、今日はいっぱいおまじないしよう?」
宏輝の発言に将大の心臓はどくりと踊る。その鼓動は密着している宏輝にも伝わってきた。
「だめ……?」
将大が断れないと知りながら、宏輝は上目遣いで懇願する。そんな自分をずるいと思いながらも、いまはただ、将大との時間を過ごしたかった。
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