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「……ヒロは疲れてるんだ」
将大は温かみのある声色で宏輝に言い聞かせる。だが宏輝は将大が発した言葉の中に、ほんの少しの拒絶を感じ取った。
今日の将大はどこかおかしい。いつもなら宏輝の訪問を歓迎し、手放しで喜んでくれていたのに、今日は様子が変だ。将大としてはアルバイトの疲れのせいだろうが、いまの宏輝には将大の心情を正確に読み取るだけの余裕はなかった。
「マサくん。僕、何かした? マサくんが嫌だって思うこと、何かしちゃったかな」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって……ううん、何でもない」
「ヒロ。今日のヒロはどこかおかしい。本当に何もなかったのか?」
「大丈夫だよ。本当に大丈夫」
宏輝は何度も『大丈夫』と繰り返し、自分を納得させていたが、将大の目にはそれがいっそう不安を駆り立てられる要因になる。
「ヒロ……」
将大は無意識のうちに宏輝に手を伸ばしかけたが、宏輝は将大の脇をすり抜けて、浴室へと向かう。将大が追いかけるように後を追うと、浴室の扉に手をかけたまま、宏輝はくるりと振り向き、照れくさそうに笑った。
「ねえ、マサくん。一緒にシャワーを浴びよう」
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