第一章 波の狭間で

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 背後から聞こえたのは彼の力強い声だった。宏輝は後ろを向いて彼の姿を探す。宏輝の待っていた相手、長谷川将大は肩で息を切らしてその場に立っていた。 「大丈夫なのか? 痛くはないか?」 「さっきの、見られちゃったんだ。恥ずかしいな」 「怪我はない?」 「ちょっと腰痛いけど、しばらくすれば治るよ。そんなに心配しないで」 「それならいいんだが……」  将大はまだ不安そうに宏輝を見下ろしている。心配性の将大のことだ。帰りにドラッグストアへ寄り、湿布を何点か調達するに違いない。不安げに右往左往する将大の姿を想像し、宏輝はひとりでクスクスと笑った。 「何だよ」 「ううん。マサくんが可愛いなあって思っただけだよ」 「俺なんかより、宏輝のほうが何倍も可愛い」 「ありがとう。そうだ、マサくん。おまじないしない?」 「ここでか?」 「だめ?」 「いや、駄目じゃないけど……お前はいいのか?」 「したい。マサくんとしたい」 「っ……わかったよ」 「ありがとう。じゃあこっち来て。あんまり人が来ないところがあるから――」  宏輝が将大を連れて来たのは二階へと通じる階段裏のスペースだ。人気がないとはいえ、完全に人が通らないとは限らない。
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