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宏輝がその視線に気づいたのは、四月の末、あと数日で大型連休にさしかかろうとしていたときだ。
大学構内を歩いていると、どこからか不審な視線を感じる。まるで常にカメラのファインダーを当てられているようだ。その視線は宏輝がどこにいるときも、必ず付きまとってくる。
はじめは気のせいだと思った。自らを意識過剰な人間だと思っている宏輝は、被害者意識を持ちやすい。自分の悪い癖だとわかっている。今回もそうだろう。きっと新年度に入って周りの環境が少しずつ変化し、ストレスが蓄積されたせいだろうと、宏輝はいつものことだと割り切って、視線の暴力に耐えた。
だが、それはけっして気のせいなどではなかった。
宏輝がそう感じるようになったのは、不審な視線が付きまとうときが決まって、宏輝が大学構内を移動しているときに限るようになったからだ。それも、宏輝がひとりで行動するときに限って。
宏輝は日常の多くを将大と共に行動している。だが、必ずしもいつも一緒にいられるわけではない。視線は、将大が宏輝のそばを離れるほんの一瞬の隙をついて、宏輝の周りを付きまとうのだ。
嫌な感じがする。いままでこんな経験はなかった。
宏輝は視線から逃れるように、ますます自分の世界にこもるようになり、将大以外の人間との接触を拒むようになる。目立たない地味な色の服を着こむようになったのもこのころからだ。
外出時にはどんなに気温が高かろうと長袖のパーカーをはおり、顔はキャップやマスクで隠す。視線から逃れるためには自分自身を消してしまえばいい。宏輝は愚かにもそう考えていた。
その考えが間違っていたと宏輝が知るのは、視線の暴力に怯えるようになってから、さらに一週間が経ったときであった。
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