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「まただ……」
宏輝は辺りを見渡して、そっと嘆息する。視線の暴力は宏輝が想像していた以上に執拗に、また粘度をはらんだものになっていた。
宏輝がそう感じるようになったのは、将大のささいなひとことがきっかけであった。
――最近、構内が騒がしいな。
宏輝には、将大の真意がわからなかった。宏輝を気遣って、わざと遠い言い回しをしたのだろう。将大が他人を気にするような発言をすることは、めったにないからだ。つまり将大は、宏輝の身の回りが騒がしい、何かあったのではないかと察したのだ。
だが、それが何なのか、将大は感づくことができなかった。だから宏輝に対してもあいまいな発言になってしまったのである。
宏輝が将大の言葉の意味を理解したのは、あの視線の暴力が将大と一緒にいるときでさえ感じるようになっていたと宏輝自身が察したときだった。
はじめは将大が宏輝のそばから離れているときに、視線は現れはじめた。だが、いまでは将大が宏輝のそばにいようかいまいか関係なく、視線が襲ってくる。むしろ将大といるときのほうが視線の粘度は高い。
それは嫉妬にも似た卑しい感情であっただろう。
しかし、宏輝には誰かに嫉妬したことも、嫉妬されたこともなかった。だから、その視線に含まれている感情を見抜くことができない。ただただ、怖かったのである。恐ろしかったのである。
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