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月曜日の夜。この時間帯、宏輝はどうしてもひとりになってしまう。将大のアルバイトのシフトが重なっているためだ。将大は宏輝をひとりにさせまいと、シフト面でかなり上と話し合ったそうだが、月曜日だけはどうしても人手が足らなかったらしい。
宏輝は当初、そこまでアルバイト先と話す必要はない、子供じゃないんだからひとりでも帰れると主張していたが、当の将大が頑として受け取らなかった。
だが宏輝は今日ほど隣に将大がいないことを不安に思ったことはない。
大学から宏輝がひとり暮らしをしているアパートまでは徒歩で二十分ほどである。学生街とはいえアパートへと足を進めるたびに街灯は減っていき、人通りもまばらになってくる。
午後七時三十五分。五月になったとはいえ、暗い道のりだった。
宏輝は足早に家路を急ぐ。嫌な予感がしたのだ。後ろを振り返る勇気もない。
あの視線が。宏輝をじわじわと苦しめていたあの暴力的な視線が、大学を出てからずっとついてくるのである。こんなことは初めてだった。いままで、視線を感じていたのは大学構内に限った話だった。
だが、今日は宏輝の帰宅と共に大学を抜け出して、あろうことか自宅アパートまで接近しようとしている。
――どうしよう。
宏輝は焦った。このままアパートに帰るのは怖い。あの視線が部屋の中にまでついてくるのかと思うだけで吐き気がする。かといってこのままうろうろと辺りをさまよい、視線から逃れるというのも無理な話だ。宏輝にはそんな度胸もないし、視線から逃れるための策を思いつくだけの頭もない。
だがそのとき、尻ポケットに入れていたスマートフォンが振動する。メールの着信が入ったのだ。宏輝は急いで画面をタッチし、送り主を確認する。安堵の息が漏れた。
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