第1章

2/2
前へ
/2ページ
次へ
どんなに願っても 戻れないあの日がある どんなに悔やんでも 消せない失敗がある どんなに許しを乞うても 取り戻せない信頼がある 置き去りにした過去たちは 9回裏でエラーしたボールのように いつだって僕らの心を責め立てる 「だけど、変わりたいんだ」 突然、君が告げた 「無理にきまってんだろ」 僕は、胸が苦しくなった 自分ごと置き去りにされそうで 不安という名の怪物が、くっきりと形をあらわした 「それでも、始めようと思うんだ」 小さく、けれども強く、頷いた君 僕は無言で見送った そうすることで引き止められる気がした 「さよなら」 澄んだ声を響かせて 君は軽やかに走り出した スタートラインにさえ並べなかったけれど 一度だけ、振り返ってくれた君の あの笑顔の意味を 僕はいつまでも、問い続けるだろう 怪物たちと寄り添いながら さよならが似合う、この街で
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加