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お隣さん
部屋を出ると、同じように出できた隣の部屋の人と出くわした。
引っ越してきて間もないマンション。周囲にアイツはしたが、その時隣は留守だった。
いい機会だからと、非骨子の挨拶を述べようとしたら、向こうからいきなり妙なことを聞いてきた。
「あの…そこのお部屋、何か変わったこととか、ない?」
「は?」
突然そんなことを言われても、思い当たることがない。何しろ越して来たばかりだ。環境の変化による些細な不便や不都合はいくらでもある。
「特にはないですけど」
それでも、これがこうだからおかしい、と言い切るようなことはないからそう告げると、お隣さんはあからさまに不審そうな顔をした。
「そう。それならいいんだけど…」
まるで、何かあるのが当然だと思っている様子だ。そんな態度を見せられたらさすがにあれこれ聞きたくなる。
「この部屋、どうかしたんですか?」
「どっていうことではないんだけど…ああ、ごめんなさい。もう行かないと」
そう言い残し、お隣さんは部屋の中に引っ込んだ。
…何なんだ? あんなことを言われたら気になるに決まってるじゃないか。
この部屋にいったい何があるっていうんだ。
駅は近いし間取りも充分。新築ではないが綺麗だし、日当たりなども申し分ない。家賃だってこのクラスにしては安めだし…。
そこまで思ってふと気づいた。
立地条件や部屋の状態がいいのに、家賃がやたらと安い部屋たまにある。それは事故物件と呼ばれるもので、前の住人が何らかの形で亡くなっている部屋だ。
まさか、俺の新居は事故物件なのか?
そんな話、大屋さんから聞いてない。いやでも確かあれは、話す義務があるのは、すぐ前の住人か亡くなっている時だけだ。それ以前の住人が亡くなっていて、でも因縁は残っているという部屋の場合は、特に通知の義務はなかった。
霊感なんて、あると思ったことはないし、心霊現象の類も縁遠かった。だけどあんな話を聞かされたらさすがに気になる。
一度聞いておこうと、その足で、一階の管理人室を訪ねた。
「はぁ? あの部屋が事故物件? 違いますよ」
返事はあっさりとしたものだった。でも俺はすでに疑心暗鬼に陥っていて、素直にそれを信じることができない。
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