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数分の後、沈黙を破ったのは彼女の方だった。
作業の手を止めることなく、ぽつりと。
「なぜ、ヨンダ君じゃなくなったのかしら」
明瞭なソプラノで、彼女は言った。
「パンダの需要は、十分にあったと思うのだけれど。あれでは、確実にハッケン君に負けてしまうわ……」
どうやら、僕に話しかけているわけではないらしい。
「ナツイチのはちも捨てがたい……。今年は角川と集英社から攻めようかしら」
「ナツイチとカドフェスは、一冊買えばブックカバーが付いてくるしな」
話しかけられていないと分かっていたのに、つい返してしまった。
彼女の目が見開かれる。
「……わたし、声に出していたかしら」
「ああ」
「……そう」
表情は変わらないが、気まずさを感じているらしかった。
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