伝えること。

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私は彼に聞いた。 「それって、みんなに同じ文章を張り付けてブログのページと一緒に送ったんじゃない?」 彼はきょとんとしたように、そうだ、と言った。 ミクロってそういうところだと思うの。彼は、有名人というわけでも、学者や評論家といった箔もない。ただの友人、ただの知人が、急になにかのコピペでもしたような文章を、読め!とばかりに送り付けただけでは気が狂ったとでも思われたんじゃないか、と言ったら、そんな感じだったと答えた。 今の世の中は起業家やネットワークビジネスで溢れていて、言葉自体が正しくたって、それを巧みに使って仕事をする人たちがいる。注意喚起が、変な宗教やビジネスだと訝しむ人だって少なくない。なによりも、だ。その人たちは、それが大変なことだという認識がないのだから、まず主張をしたところで耳をふさぎたくなるものだと思うの。だって、面倒くさいし、共感できないのだから。伝える力も媒体もまだないけれど、それでもどうにかしないと、と焦ったところでそれは百分の一も伝わらないんじゃないかと思った。 私には、彼に大きな声で伝えられる場を作るための助言はできそうになかった。けれど、身近な人にまず伝えることはできるよ、って言いたかった。 伝えたい人にまずは歩み寄ること。その人がなにを考えているのか、どんなことに心を砕いているのか、なにに悩んでいるのか。それをまずは聞くことから始めないと、もしかしたら相手は、それよりももっと自分の中で重大な何かを抱えているかもしれない。こちらからしたらどんなにくだらないことでも、相手にとっては大切なことは山ほどある。恋愛がいい例だ。好きな人の一挙手一投足に心を乱されているのは本人だけで、周りからすればそんなものは些末な問題だ。それでも伝えたいことがあるなら、まずは相手の話を聞くところから始めないと、伝わる言葉が紡ぎだせないものだと思うの。
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