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こんなところに古本屋が出来ていた。チェーン店ではなく、個人経営の店だ。
あの頃はよく彼女にあちらこちらにつき合わされたものだが、別れてからは全く立ち寄らなくなっていたことに気づく。
無意識にそちらに足が向いた。扉を開くと古い紙の匂いが鼻をくすぐる。
彼女は大の本好きだった。うちに遊びに来るときも必ず携えていた。
端から順に本棚を眺めていく。専門書から始まって新書や文庫本が続く。やがて一冊の本が目に留まった。
『夏への扉』だ。彼女が一番好きだったもので、僕の部屋にも持参したことがある。飲みかけのコーヒーカップをうっかりその上に置いたことで、茶色い丸い染みを作ってしまったことを思い出した。
あの時はこっぴどく怒られたっけ……と思いながらカバーをはずし、裏表紙を見る。
「うそ……」
思わず口からついて出た。そこに見覚えのある染みがあったのだ。まさか彼女の本か?ぱらぱらとめくって確認するも、それだけでは分かりようがない。たまたま同じ汚れがついただけなのかもしれない。
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