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 引っ越しを機に全てを手放したことが悔やまれてならない。見れば思い出すからと、何もかも処分してしまったけれど、せめてあれだけは手元に残しておくべきだった。  散々迷った挙句、私は再びここに来た。まだあるだろうかと思いながら扉を開けると、古い紙の匂いに混じって、記憶を呼び覚ますある香りが漂ってきた。  あの頃、時々私の髪に残っていた煙草の移り香……。  ふと気がつけば、懐かしい笑顔が私に向けられていた。彼の手の中には、『夏への扉』があった。
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