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閑散とした部屋にパタンと扉が閉まる音だけが響いた。
「…どうしたの?何かあった?」
そわそわと圭吾さんは落ち着かない様子。それもそうだろう。なんとも言えない重い空気が室内を埋め尽くしていた。ゆずも細川先生も東雲さんもただ、圭吾さんをじっと見ていた。
「単刀直入に聞きます。私の研究データを盗んだの、圭吾さん…なんですよね?」
「え?何言ってるの?」
どうしてだろう。
涙が溢れそうになる。
「なんで俺が?俺だってみかんちゃんと同じように堀田にデータを盗まれた被害者なんだよ?」
「…なんで知ってるんですか。私のデータが堀田に盗まれたことを」
「それはゆずに聞いたからだよ。ゆずは覚えてないかもしれないけど」
平静を装うように笑顔を絶やさない圭吾さんだったが、次第に口調が強くなっていた。
「それはありえないんです」
「だから、ゆずが覚えてないだけだって。ほら、春に一緒に飲んだだろ?その時だよ」
「ゆずはその頃、私のデータが堀田に盗まれたことを知らなかったから」
「じゃあ、他の誰かから聞いたのかもしれない」
「それもないです。知っているのは中川さんと芹澤先生の二人だけだから」
目を泳がせ、明らかに動揺している。頭を何度も掻き上げながらどうにかして言葉を探そうとしていた。
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