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七瀬さんが深いため息混じりにそう言うと、聖が大きく声を上げて笑った。
「じゃあ、目が覚めるまでの間、せいぜい遊び回ってこよう」
と、声だけがその場に残る。
気がつけば聖の姿は窓のところにはなく、七瀬さんが慌てて窓のところに駆け寄って外へと向かって叫んでいた。
「せめて着替えていってよ!」
しかし、もちろんその言葉に返事などなく。
「すみません、蓮川さん」
真治がそう言うのが聞こえて、私は顔を上げた。私は相変わらずベッドに座ったままで、軽く頭を掻いて微笑む。
「まあ、仕方ない。なるようにしかならないのが現実だ」
そう言ってから、私は潤の方へ目をやった。
ほとんどこの場にいて話をしない彼。
だから、少しだけ気にかかっていた。本当は彼に何て言ったらいいのかすら解らない。これからどう接したらいいのかも。だから、彼からの言葉を待っていたのかもしれない。
彼が何て言うのか、それ次第で何かが変わるような気がしていた。
しかし。
「ごめん、大介」
やっと彼から聞こえた言葉は、謝罪のそれだった。
潤は私から目をそらしたままで、苦しげに息を吐いた。
「俺、一生をかけて大介に償うつもりだから。何でもする。全部、俺のせいだから、何でも言ってくれ」
「潤?」
私は戸惑ったような声を上げてしまう。
今さら謝罪の言葉など必要ない。そんなことよりも、もっと別のことを――。
「真治だったら頼りになるよ。きっと、いいパートナーになれると思う」
「潤?」
さらに私は声を上げて。
「いいんですか?」
真治が詰問するかのような口調で言った。「私が蓮川さんを提供者としても?」
「うん、いいよ」
潤は笑いながら頷く。「それが大介のためなんだ」
私はただ、潤のことを見つめ続けていた。
そして、潤は私のことを見ようとはしなかった。
◆第一部 完◆
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