第3話

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 仕事が終わっての帰り道。私は相変わらず、駅の近くのスーパーマーケットで買い物をしてから帰途につく。  ちょうど総菜などが安くなる時間帯なので、家計も助かるというものだ。 「……何を買うの?」  私が酒類の並んでいるところに立ったとき、突然、横に滑り込んできた少年がそう声をかけてきた。  私は驚いてその少年を見下ろし、見覚えのないその横顔に、本当に彼が私に声をかけてきたのかと訝った。誰か、知り合いと勘違いしているのだろうか。  私がただ困惑したままそうしていると、その少年はわずかに肩をすくめてこう続けた。 「お兄さん、口がきけないの?」 「ああ、いや」  そこでやっと、彼が本当に私に声をかけてきているのだと理解する。そして、改めて彼を観察した。  私は彼を知らない。これだけ印象の強い彼なら、会っていたとしたら忘れるはずがないだろうに。  私は黙ったまま考えた。  本当に、そこにいた彼は綺麗な顔立ちをしている。少し気の強そうな目元、人をからかうのが好きだと言いたげな口元。  そして、ひどく人好きのするような笑顔。 「どこかで会ったか?」  私はふと、奇妙な感じを覚えながら彼にそう訊いた。すると、彼はくすくすと笑って頷いた。 「会ってるよ。お兄さんが忘れてるだけ」 「そうか」  私はそう応えながら、どこで彼と会っただろうかと必死に考える。しかし、どうしても思い出せない。 「で、何を買うわけ?」  少年の口調は、あまりにも自然だ。だから、それにつられてだろうか、私も普通に言葉を返していた。 「ビールを」 「ふうん」  少年は辺りを見回して、白ワインのボトルを私の下げていたショッピングカートに入れる。「俺はこっちを勧めるけどね」 「未成年だろう」  私はさすがに渋い表情をして、そのボトルを元の場所に戻した。さすがに、その行動には問題があるとしか思えない。だから、つい厳しい口調になった。 「悪いが、君のことも思い出せない。人違いの可能性がある」 「人違いなんかじゃないよ」  少年は肩をすくめてそう言うと、さらにこう続けた。「俺、お兄さんに助けてもらったんだよね」
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