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「助けた?」
やはりそのような記憶はない。私が怪訝そうな顔をしているのを、彼は楽しげに見つめている。私はやがてため息をこぼしてから、その場を離れた。
「帰るの?」
私の後ろを少年が追ってきた。彼は私の隣に滑り込むようにして立つと、一緒にレジへと向かう。
「ああ。君も帰ったほうがいい。家は近くなのか」
「遠いよ」
私はちらりと彼の顔を見やる。さて、本当のことを言っているのか、それとも嘘なのか。
とにかく、どこか危険な感じがして、私はこれ以上彼と関わることはやめたほうがいいと自分に言い聞かせる。それは、動物的な勘のようなものだと思った。
後をついてくる彼に向かって、私は振り向きもせずに言った。
「悪いが、ついてこられると迷惑だ」
「……冷たいね」
そう言ったものの、少年は私の言葉に気を悪くした様子もなく、ただ一緒にレジに向かい、会計が終わるのを待っている。そして、会計の終わった荷物を袋に詰め終わった私の横で、じっと黙って私を見つめている。
居心地が悪い。
「何が目的だ?」
私は彼を見つめ直してそう低く訊いた。
すると、彼はひどく開けっぴろげに笑い、短く応えた。
「腹が減った」
どういう流れなんだろう。
私は困惑していた。
いつの間にか、彼は私のアパートへの道を私と一緒に歩いている。彼が何を考えているのかはわからない。そして、自分も何を考えているのかわからなかった。
「困る」
「家に帰ったほうがいい」
そう繰り返したのに彼は無邪気に笑うだけだ。そして、「今晩のおかずは何?」と興味津々に私に話しかけてきて。
いつの間にか、どうでもよくなってきていた。
とにかく、腹が減っているというのなら、食事をさせて帰らせてしまえばいい。そう決めてしまえば、後は楽だった。
私は、あまり広いとは言えない自分のアパートに彼を上がらせた。一応、部屋は二つある。寝室とリビング。広いとはいえないキッチンと、風呂場とトイレ。物を置くのは嫌いなので、家具も必要最低限しかない。だから、殺風景と言っても間違いではない。
「綺麗にしてるんだね」
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